Vol.1 若ワシの夏
今年も猛暑の夏が訪れた。
野生動物たちは、この暑さをどのように、しのいでいるのだろうか。この猛暑の中、 鳥たちはさえずり、子育てを終えようとしている。
巣立ったばかりの幼鳥が翼を震わせ、親鳥に餌をねだる姿をあちこちで見かける。 オシドリの母鳥が、7〜8羽の子供を連れて畑の脇を川に向かって歩いている。トビの 幼鳥が、鳴きながら親鳥の後を追っている。僕がもっとも心惹かれる鳥「イヌワシ」 も、切り立った崖にある巣で無事にヒナを巣立たせた。
5月の下旬に巣立ったイヌワシのヒナは、翼と尾羽の白斑を輝かせて元気に飛び回って いる。黒っぽい羽色と白斑のコントラストが非常に美しい。親ワシの姿を見つけると キィョッ、キィョッと盛んに鳴きながら、後を追おうとしている。巣立ちと言っても なんとか飛べるようになったというだけで、自分で獲物を捕えることはできない。当 分は、親ワシが運んでくる獲物を頼りに生きている。ノウサギやヤマドリなどの生き た獲物を狩るには、これから何ヶ月も訓練を積まなければならない。若ワシは、飛ぶ ことも狩りをすることも、まだまだ経験不足である。巣から飛び出したものの、遠く まで飛行する勇気はなく、獲物となる動物がどこにいるかさえも知らない。巣立ちま もない若ワシは、1日に2〜3回くらい近辺を短時間飛行するだけで、大半は林の中に止 まって過ごす。3ヶ月近くたった現在では、空高く帆翔し、遠くまで出かけるようにな った。親ワシのように自由自在に風を操って飛翔するまでには達していないが、高空 から急降下して樹に止まる姿も様になってきた。ゆったりと帆翔し、高空を滑翔して 谷を越え、遠くの尾根まで出かけて行く。双眼鏡で追う僕の視界から点のようになって 山の斜面に溶けて消えそうになる。かろうじて白斑の輝きだけが目に映る。3kmくらい 行ったところで急に不安になったのか、Uターンして本拠地へと戻って来る。僕が自転 車に乗れるようになって、今まで一人で行ったことがなかった土地へ出かけて行った時 と似ている。来た道と同じところを間違えずに帰れるだろうかと不安になったものだ。 若ワシは日々、少しづつではあるが行動範囲を広げている。彼が獲物を見つけて狩りに 成功する日はいつのことだろうか。冬には、親ワシのテリトリーから追われ、本当の意 味で巣立ち(独り立ち)しなければならない。自分の食べ物は自分で確保しなければ生 きられない。彼らには、獲物となる多くの野生動物を育む豊かな自然環境が必要である。 しかし、野生動物が生活できる環境は、どんどん減少している。独り立ちしたイヌワシ の幼鳥が成鳥になるまでに、75%が死んでしまうというアメリカの調査結果がある。厳 しいが、自然界の「おきて」なのだ。果たして、この幼鳥は生き抜くことができるだろ うか。無事を祈らずにはいられない。
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須藤一成 Kazunari Sudo
滋賀県米原市在住。動物生態写真家。
18歳の時に出会ったイヌワシに魅せられ、以後イヌワシの調査と撮影に明け暮れる。雄大な山並みを飛翔する姿は見ていて飽きることがない。
作品は動物雑誌、図鑑、単行本などに発表のほか、各地の自然博物館などに展示。調査研究や保護活動は、テレビや新聞などに取り上げられている。
著書に写真集『GOLDEN EAGLE イヌワシ』(平凡社)、ビデオ作品『孤高のハンター イヌワシ』(滋賀県)・『大空を舞う 森の守護神』(NHK)など。















